丹波チーズ工房のブログ

江戸時代から続く農家の成長日記とチーズのある暮らし

チーズ作りの要【乳酸菌】の役割と、自家培養する理由

ナチュラルチーズの原材料は、牛乳と食塩です。

食品表示検定中級 on Twitter: "ナチュラルチーズ。種類別は14pt以上で ...

が、実はもう2つありまして、

 

製造過程で乳酸菌とレンネット(凝乳酵素)を使っています(微量なので、原材料表示義務はありません)。

 

チーズ作りとは、牛乳から10%程度の固形分(タンパク質と脂肪分)を化学変化によって取り出す作業です。

その化学変化に乳酸菌とレンネットが働いているのです。

 

今回はその大切な役割を担う乳酸菌と、その培養について、じっくり書いてみようと思います。

 

チーズの乳酸菌とは

乳酸菌と聞くと、どんなものをイメージしますか?

一番に出てくるのはヨーグルトですよね?

そうです。まさにヨーグルトこそ、乳酸菌のかたまりなんです。

明治ブルガリアヨーグルト プレーン 450g | 一般食品,乳製品 ...

乳酸菌とは、発酵によって糖から乳酸を作る微生物のことを言います。

「乳酸」をつくる「菌」ってことですね。

 

プレーンヨーグルトはちょっと酸味がありますが、

その酸味こそ、乳酸菌が働いた証拠であり、冒頭にもお話したチーズの化学変化のために、その「酸」が大切になります。

 

牛乳はほぼ中性の液体なのですが、

乳酸菌が作り出す酸によって酸性に傾くと、

牛乳中でふわふわ浮かんでいたタンパク質の構造が変化し、タンパク質同士が手をつなぎ始め、最終的に豆腐のように固まるんです(専門用語で酸凝固)

これがヨーグルトであり、そこからさらに水分を抜く(レンネットも働きます)とチーズになります。

 

つまり、ヨーグルトとチーズは親戚というか、兄弟みたいなものなのです。

 

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この表のように、乳酸菌にもいろんな種類があって、

ヨーグルト用、モッツァレラ用、ゴーダチーズ用、など作るチーズの種類や製法によって、1種類~数種類の乳酸菌をブレンドして使います。

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市販の乳酸菌スターター

牛乳を乳酸発酵させる菌のことを「乳酸菌スターター」と呼びます。

例外として、白カビチーズなどには「カビスターター」も使われます。

 

ヨーグルトメーカーなんかを使ったことある方は、ヨーグルトスターターをイメージしていただくといいです。ほぼ同じものです。

 

チーズ製造の一般的なものは、フランスのクリスチャンハンセン社の冷凍スターターがあります。

小さい文字で見えないかもですが、「サーモフィルス」という乳酸菌が入っています。モッツァレラチーズなどは、こちらの1種類だけ入ったスターターを使います。

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普通の店には売っていないので、国内取次をされている業者さんを通じて購入しています。

1袋で500Lのミルクを発酵させる力がありますが、5000円もするので、まぁまぁバカにならないお値段です。

 

この乳酸菌スターターを、殺菌して30℃くらいに冷やしたミルクにポイ✋っと入れるだけで、乳酸発酵が進むという大変便利なものです。

 

師匠から受け継いだ自家培養

さて、丹波チーズ工房では、このスターターを私が自ら作っています。

やり方はヨーグルトメーカーで自家製ヨーグルトを作るのと同じで、ずっと種継ぎしていくだけです。

 

理科の実験のような三角フラスコを使っています。

36という数字は36代目という意味です。aとbの2系統培養することで、失敗したときの保険にしています。写真では3系統目の乳酸菌も作っています。

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最初の種菌は、市販スターターを使い、それ以降は乳酸菌の活性状態を見ながら培養濃度を調整し、50代目まで培養を続けます

インキュベーターという、温度を一定に保てる専用保温庫を利用しています。

 

このやり方は全て師匠に教えてもらいました。

先ほど紹介した市販スターターは、必要な時に必要な量だけ、冷凍庫から出してポイッとするだけですが、培養はほぼ毎日の仕事になるので、めちゃくちゃ手間なんです。

でもこれが師匠の教えなんです。師匠もずっとやってきたのです。

師匠の教えを忠実に守って、チーズ工房設立以来4年間ずっと、チーズ作りよりも頑張っています(笑)

 

なぜ自家培養するのか

さて、そんな手間のかかる自家培養ですが、私も盲信的にやっているわけではありません。

一言でいってしまうと、「安定した品質が保てるから」ということです。

 

野菜栽培にたとえてみましょう。

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野菜作りの世界には「苗半作」という言葉があります。

これは苗の良し悪しが、その後の生育に大きく影響してくるという意味で、苗づくりの大切さを説いた言葉です。

苗の根がヒョロヒョロだったり、葉っぱに病気が出ていたりすると、畑に植え付けをしても、水分が吸収できず枯れてしまったり、周りに病気をまき散らすことになったりと、とても困ります。ですから昔から農家は自分の手で、自分の栽培法に合った元気な苗を毎年作ってきたのです。

 

チーズも考え方は同じです。

市販スターターが悪いわけでは全くないのですが、自家培養し、私の製造法に合った元気のある乳酸菌に仕上げていくことで、毎回安定した発酵をしてくれていますし、

ゴーダチーズなどの長期熟成チーズでも、12ヶ月以上の長期間、しっかり働いてくれるようになると考えています。

 

100年前はヨーロッパのすべての工房で自前の乳酸菌を用意していたようですが、

技術進歩により、今はより手軽な市販スターターを使うようになってきています。

でも私は、せっかく師匠から受け継いだ伝統的な培養法ですから、無駄だと笑われながらも、これからも培養を続けていきたいと考えています。

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おいしいを目指して

丹波チーズ工房がこれまで秘密にしてきた乳酸菌について書いてみました。

苗づくりというより、自家採取という例えのほうが良かったのかなーという感じもしますが、まぁなんとなく伝わっていれば嬉しいです(^^)/

 

8年前、初めて師匠のチーズを食べた時の感動は今でも忘れられません。

そんな師匠に追いつくためにも、牛乳はもちろん、乳酸菌作りもして、もっとおいしいチーズに挑戦し続けます!

 

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そんな乳酸菌を使ったチーズは農場でも直売しています。

ご自宅にお届けするネット通販もありますので、ぜひ応援お願いします✋

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【丹波チーズ工房】蔵熟成ゴーダチーズの作り方