丹波チーズ工房のブログ

江戸時代から続く農家の成長日記とチーズのある暮らし

チーズを丸一年も熟成させる理由!苦みの原因も熟成にある!?

丹波チーズ工房では、

1年かけて熟成したゴーダチーズを作っています。

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一般的にゴーダチーズは、

3~6ヶ月熟成が多いのですが、

なぜ当工房では12ヶ月もの長期間熟成をさせるのか。

 

ひとことで言うと、

「より美味しくなるから」という言葉に尽きるのですが、

今回はその美味しさの理由をお伝えしたいと思います。

熟成とは

チーズ作りにおける熟成とは、

それぞれのチーズに適した温度と湿度の熟成庫に、

それぞれのチーズに適した期間だけ保蔵し、

チーズ内部での乳酸菌やカビによる発酵を進めることです。

 

熟成する前のチーズは「グリーンチーズ」と呼ばれ、

塩味が付いただけの硬い組織で、風味も淡白ですが、

熟成が進むと、複雑な味わいや香りが生まれ、口当たりも滑らかになります。

 

代表的なチーズの熟成条件
チーズの種類 チーズ名 熟成温度(℃) 熟成湿度(%) 熟成期間

シェーブル

サント・モール 12~14 85~90  2~3週間
白カビ カマンベール 12~13 85~95  3~4週間
青カビ ロックフォール 8~10 90~95  3~4カ月
ウォッシュ ポン・レヴェック 8~10 85~90  5~8週間
リンバーガー 10~16 90~95  2カ月
セミハード ゴーダ 10~13 75~85  4~5カ月
ハード グリュイエール 15~20 90~95  6~10カ月
パルミジャーノ・レッジャーノ 12~18 80~85 2年
出典:齋藤忠夫ほか『畜産物利用学』文永堂出版(2011年)
 
代表的なチーズの熟成条件です。
大体似たような温度と湿度ですね。ワインセラーともよく似ています。
 

熟成中、なにが起こっているのか

専門用語も多いので、太文字だけ読んでいただいても大丈夫です(笑)

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①水分が蒸発して風味が増す

チーズはもともと牛乳なので、多くの水分(ホエー)を含んでいます。

出荷時の重量は減ってしまいますが、自然蒸発によって水分が抜けていきます

出荷時での水分量は、パルミジャーノという一番硬いチーズで15%、ゴーダは40%、カマンベールは52%くらいになります。 

水分が抜けることで、タンパク質などの成分割合が相対的に増え、風味が増していきます。

②カゼインが、ペプチドやアミノ酸に分解されることで、旨味と香りが作られ、組織も軟らかくなる

牛乳の主タンパク質であるカゼインが、

乳酸菌や凝乳酵素キモシン及び乳中のプラスミンなどの

プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)により加水分解されていきます。

旨味成分のアミノ酸などもここで作られ、

アルデヒド、アミン、アンモニアなどの香り成分も生成します。

 

下の写真は当工房のゴーダチーズです。

内部に白い斑点のようなものが見えるでしょうか?

これは塩の結晶ではなく、アミノ酸(チロシン)の結晶なんです。

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熟成が十分に進み、うまみ系アミノ酸がたくさん生成されていることの証拠です。

 

そして、熟成により食感も変わります。

出来立てのグリーンチーズは、カゼイン同士がしっかり手を結んでいるので、

食感がボロボロしていて硬いのですが、

分解が進むことで、カゼインの繋がりが弱まり、

トロッと舌の上でとろける組織に変わっていきます。

 

カマンベールチーズが、熟成するとトロッと軟らかくなる理由は、

白カビがカゼインを分解をしてくれているから、というわけですね。

 

 

③乳脂肪分が分解され、香りが作られる

乳脂肪は主にカビ由来のリパーゼという酵素により分解され、遊離脂肪酸が作られます。

その中には揮発性脂肪酸の酢酸やカプロン酸などが含まれ、

チーズの香り成分となります。

遊離脂肪酸が酸化すると、青かびチーズに特有の香り成分であるメチルケトンも生成します。

 

④乳糖が乳酸菌のエサになり、香りが作られる

乳糖が乳酸菌のエサとなり、乳酸やエタノール、炭酸ガスが出てきます。

乳酸からは、アルデヒド、アセトンなどの香り成分が生成され、

エタノールは発酵して微量のアルコールになり、

脂肪酸と結びついて香り成分である各種エステルとして、チーズの香りを作ります。

ある種の乳酸菌からは、クエン酸やジアセチル、酢酸も生成されます。

 

このように、チーズの風味や香りには様々な要素が複雑に絡み合っているのです。

 

チーズの苦みは必然!?

チーズを食べて「なんか苦いな」と思ったことはないですか?

実はそれ、熟成期間が短いことが原因で起こっていることかもしれません。

 

チーズの製造段階でのミスももちろん考えられるのですが、

先ほど説明したカゼインの分解物である「ペプチド」には、

苦みを感じる性質を持っているものが結構多いのです。

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実は、私の作るゴーダチーズも苦い時があったんです。

 

先日、試作品の6ヶ月目のゴーダを食べてみると、

基本的においしいのですが、最後にわずかに舌に苦みが残りました。

 

「うわ!やべ!なんか失敗したかも!」

と急いで製造記録を確認したのですが、有力な情報はなく…(;´・ω・)

 

あーやばいなーと思いながらも、1ヶ月弱たったころ、

また食べてみるとその苦みは完全に消えていたんです。

 

びっくりして、文献を読み漁ったところ、

タンパク質がアミノ酸に分解される過程で作られる「ペプチド」には、

苦みを感じるものが多く、そこからさらに熟成(分解)が進めば、

アミノ酸となり、苦みを感じなくなるとのこと。*1

つまり、チーズの熟成が

今まさに目の前で進む過程を体感できたのでした( *´艸`)

どんどん熟成すすめ~✋

 

一応補足しておくと、チーズの苦みの原因は原料乳や製造工程のミスなども考えられますので、食べられないほどの苦みを感じたら、無理して食べる必要はないと思います。

 

熟成庫での仕事

実際、熟成庫では毎日どんな作業があるのでしょうか。

 

①温度と湿度の管理

当工房のゴーダチーズは温度12~13℃、湿度80~85%くらいです。

ヨーロッパでは、

外の環境の影響を受けにくいよう熟成庫を地下に作ることも多いため、

当工房では「蔵」に熟成庫を作ったのですが、

夏と冬では蔵の温度も変わるので、一年間一定に保つのはなかなか難しいです。

天気によっても湿度が大きく変わるので、注意が必要です。

毎日最低朝晩2回は確認して対応しています。

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②チーズの反転、手入れ

チーズの熟成が均一に進むように、毎日上下ひっくり返します。

その際、乾いたタオルで表面を磨きます。

これは、表面に生えたカビや菌たちの繁殖を適切に抑え

チーズの表皮(リンド)を作ることで、中のチーズをおいしく守る大切な作業です。

毎日拭いているだけで自然とリンドは出来上がっていきます。

 

本場オランダでは、この作業を軽減するため、

特殊なパラフィン(ワックスみたいなやつ)を使うのが一般的だそうです。

写真の赤いやつがパラフィン↓

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パラフィンを使うと、水分の蒸発が進まないので、

リンドチーズよりは風味の濃厚さが劣るといわれています。

ただ最近では、いい感じに水分も抜けるよう加工されている

特殊なパラフィンみたいなやつがあるようです( ゚Д゚)マジデ~

 

つまり、当工房のやり方は、

100年前くらいのチーズの作り方なのかもしれませんね( ゚Д゚)/

熟成チーズの美味しさを✋

ちょっと専門用語も多く出てきましたが、

熟成によってチーズが美味しくなる仕組みを

少しでも知っていただけたら幸いです。

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熟成した当工房の蔵熟成ゴーダチーズは、

コクのある香りと確かな旨味が口いっぱいにふわーっと広がり、

飲み込んだ後の余韻も楽しむことができます。

 

日々の暮らしの中で、一瞬でも肩の力を抜き、

「あ、おいしい」と笑顔になっていただけるよう

心を込めて、日々試行錯誤しながら作っています。

 

 

今後とも応援よろしくお願いいたします✋

 

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さて、丹波チーズ工房では、

送料無料のお得なチーズセットを通販しています。

私も牛さんも飛び跳ねて喜びますので、ぜひサイトをご覧ください!

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 いよいよ田んぼも始まってきました。健康第一で頑張ります!


【丹波婦木農場】お米作り(種まき編)

 

*1:ある乳酸菌は、増殖して死滅した後にアミノペプチターゼという酵素を生成し、苦みペプチドを加水分解させるようです。乳酸菌スターターには、もともとその性質を持った乳酸菌を必ず用いるようです。