婦木農場が「ジャージー牛」を飼う5つの理由
婦木農場では、現在8頭のジャージー牛を飼っています。
時々、お客さんにも聞かれるんです。
「なんでジャージーをCOW(かう)んですか?」
・・・すいません。つい出来心で・・・
でもほんとに聞かれるんです。
そんなとき私はたいてい、
「かわいいからですよ~(^^)/」とか
「チーズに加工するためなんです~」なんて返しているんですが、
実は一言では説明できない、いろいろな理由があるんです。
じっくり読んでいただければ嬉しいです。
予備知識として、以前の記事も読んでいただければ嬉しいです。
きっかけはノンホモ低温殺菌牛乳
婦木農場は昭和12年から酪農を始めたという記録が残っています。
我が家のミルクは「ノンホモ低温殺菌牛乳」用として地元の酪農組合に出荷をしていました。
少し時代をさかのぼって、1980年代。
当時、公害問題などや食の安全安心を求める機運が高まり、
酪農組合では、神戸の消費者団体の後押しのおかげで、
全国でも先駆けとして「ノンホモ低温殺菌牛乳」を売り出しました。
ノンホモというとは、
牛乳に含まれる脂肪球を細かく砕くホモジナイズという工程を通さず、
「牛乳本来のありのままの形」を守る製法のことです。
普通、搾った牛乳を置いておくと、上にクリーム状の脂肪分が浮いてくるのですが、
一部の消費者の方からは「腐ってる」などのクレームになることもあるようです。
ホモジナイズすると、クリームが浮きにくくなるので、現在ほとんどのメーカーは必ずホモを通しています。
低温殺菌(別名パスチャライズ牛乳)とは、63度30分で殺菌する方法で、
搾りたての牛乳の自然な甘味があり、スッキリした喉越しとなります。
一般的な120度2秒などの超高温殺菌は、栄養成分は変わりませんが、
牛乳中のタンパク質やカルシウムが変性してしまい、風味も変化します。
この牛乳では良いチーズは作れません。
高度経済成長真っ只中、
当時の日本では珍しい「ノンホモ低温殺菌牛乳」を生産する有志の酪農家が集まり、
「パスミルク生産会」として消費者団体とつながりました。
もちろん婦木農場も、立ち上げメンバーになっています。
パスミルクの特異な取り組み
このパスミルク生産会は、消費者との間に、当初いくつかの取り決めがありました。
1.丹波地域の小規模酪農家であること
スケールメリットを求めて、大規模酪農家も増えてくる中、昔ながらの小さい酪農家を選んでいただきました。理由は次の項目につながります。
2.牧草などのエサを自給すること
大規模化は、否応なしに輸入飼料に依存することになります*1。
北海道と違い、広大な畑や放牧地も確保できないため、頭数の少ない酪農家であればあるほど、田畑で採れる牧草や、稲わらの確保ができ、エサの自給が可能となります。
3.丁寧に牛を飼うこと
牛の健康管理や、牛にやさしい搾乳方法の検討、乳質の改善など、毎月のように生産者の勉強会を開き、より良い牛飼いを目指した研鑽を続けていました。
4.消費者との交流をすること
年に数回、生産酪農家を消費者が訪ね、農作業を手伝ったり、一緒にご飯を食べるなどの交流をし、「生産者の顔の見える牛乳」としての信頼関係を深めていました。
その他にもいろいろあったようですが、
このように、酪農家と消費者が直接つながり、交渉し、
消費者の求めるノンホモ低温殺菌牛乳を提供するという取り組みは、
日本全国探しても、かなり珍しい取り組みであったようです。
婦木農場は、このパスミルク生産会の活動に当初から入っていたからこそ、
今でも続く牧草などのエサの自給に取り組んでくることができました。
酪農を廃業する!?
大成功に見えたパスミルク生産会の活動も、時代の変化にはついていけませんでした。
小さい酪農家は、後継者不足と生産者自身の高齢化で、年々減っていきました。
現在、ノンホモ低温殺菌牛乳は丹波乳業さんに引き継がれ、少し形を変えながら続いています。
婦木農場でも、エサの自給にも取り組んではきましたが、
飼料価格の高騰や、酪農担当であった祖父の高齢化(ケガ)により、
続けていくのがかなり厳しい状況に陥っていました(;´・ω・)
また、近年の温暖化により、
暑さに弱いホルスタイン牛は、毎年相当なダメージを受けてしまい、
元々乳成分が少ないホルスタインのミルクは、
乳質基準を下回ることも多く、罰則金(ペナルティ)が出ることもありました。
そして、それらを改善していく「資金」もありませんでした…。
ジャージー牛との出会い
そんな状況の中、21歳の私は、ご縁あって
静岡県掛川市の柴田牧場さんに研修に行きました。
ホルスタイン牛とジャージー牛を30頭ずつ飼い、
搾ったジャージーミルクは自分たちで低温殺菌し、
瓶詰めして、毎日地元のお客さんに配達する。
ソフトクリーム屋も営業し、夏場は連日大行列°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
という、とてつもなくすごい牧場さんでした。
そしてこの研修が縁で、ジャージー子牛を2頭分けていただきました。
ジャージー牛を連れて帰った時には、ただ可愛い!ってだけだったのですが、
乳搾りをするようになり、ジャージー牛の有能さに気が付きました。
乳成分が高いので、牧草などの自給飼料をたくさん与えても、
乳質基準を余裕でクリアできるのです( ゚Д゚)//
また、品種改良によって年々巨大化していたホルスタインは、
我が家の牛舎の構造が古すぎて合わなくなってきていたんですが、
ジャージー牛にはピッタリ!ちゃんと横になることができました。
持続可能な酪農を目指して
日本にジャージー牛が導入されたのは明治期で、
ホルスタインよりかなり早かったそうです。
当時はエサを輸入することなどなかったので、
家の周りの草や、米ぬかなどを食べさせていたことが想像できます。
そんな環境でも、
乳質のしっかりしたミルクを出してくれるのがジャージー牛なんですね。
「人間が食べられない草をエサに、ミルクや肉を手に入れる」
というのが本来の酪農の始まりでもあります。
輸入飼料はもちろん今でも与えていますが、
今のご時世、本当に何が起きるかわかりませんよね。
明日、突然エサの輸入が止まってしまうかもしれません。
でもそんな時にも、うちのジャージー牛たちは、
身の回りのエサをかき集めれば、何とか元気に乳を出してくれると思います。
ホルスタイン牛や大規模酪農家は、大変なことになるでしょう。
「持続可能」これが、ジャージー牛を飼う最大の理由です。
もちろん、これまでのおじいちゃんらの努力があってこその、今現在の考え方です。
写真は近年取り組んでいる飼料稲のサイレージ(WCS)というエサです。
秋ごろに刈り取った稲を、ワラも一緒にそのままラップでくるんで、
稲のお漬物を作っています。お米もワラも発酵して食べやすくなります。
かなり量産できるので、自給率改善に今後益々利用できると考えています。
今の取り組みが正解なのかは、正直私にもわかりませんが、
今後10年、20年、30年と時代が変わっても、
この丹波という地で続けていける酪農を、
これからも模索していきたいと思います。
そして、
そんな酪農のおかげで、今のチーズ作りができています🧀
丹波の酪農の魅力を未来に伝えていくための、私の新しい取り組みです!
おじいちゃんらには負けていられません!(笑)
どうぞ応援よろしくお願いします!!
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*1:当時は特に輸入飼料も安価だったため、依存するしかありませんでした。今ではWCS(ホールクロップサイレージ)と呼ばれる飼料稲のエサを作れるようになり、大規模農家でもある程度の自給が可能になり、先進的に取り組まれている農家も増えています。